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 笠を拾って、怪異なその顔へかむると、武者修行はさっと足を速めた。風のように彼方へ向って逃げ出したのである。勿論、そこまでの行動は極めて短い間だった。蟻のように労働している何百という石曳きも、鞭や十手を持って、そのあぶら汗を叱咤している監督も、誰も気づく遑いとまがなかったほどに――

 だが、その広い工事場を、絶えず高い所から見渡している独特な眼があった。それは丸太組の櫓やぐらのうえにいる棟梁衆とうりょうしゅうや作事与力の上役だった。そこから突然、大きな声が放たれたと思うと、櫓の下の湯呑み所の板がこいの中で、大釜の火にいぶされながら働いていた足軽たちが、

「なんだ?」

「何だ」

「また、喧嘩か」

 と、外へ飛び出した。

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